今年5月の役員改選で役員に就任する予定ですが、事業承継税制の特例措置は適用できますか?
相続対策を兼ねて、息子の社長就任にあわせて、私が所有している会社(非上場)の株式を贈与しようと思います。
「事業承継税制」を利用すればこの贈与に係る贈与税が免除されるようですが、まだ息子は会社の役員とはなっておらず、次の役員改選(令和7年5月)でまずは専務に就任させる予定です。その後、事前の計画の提出を行い、特例措置の適用を受けたいと考えています。
以前は、役員の就任期間が3年以上とはならないため適用ができない旨をお聞きしましたが、令和7年度税制改正で可能になるとの話を他から聞きました。どうでしょうか?
「事業承継税制」の受贈者要件として、現行制度では、贈与日まで3年以上会社の役員である必要があります(いわゆる「役員就任要件」)。これが令和7年度税制改正の大綱によれば、役員就任要件について、「贈与の直前において」役員であれば要件を満たすことが明記されました。他の要件をすべて満たせば、特例措置の適用は可能と考えます。
事業承継税制とは、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(いわゆる「円滑化法」)」に基づく認定を受け、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予・免除する制度をいいます。
事業承継税制は、大きく、非上場会社の株式等を対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」に分かれます。
ご相談のケースは、非上場会社の株式ですから、法人版事業承継税制を指します。
法人版事業承継税制には以下2つの措置があり、主な相違点は下表のとおりです。
特例措置 | 一般措置 | |
---|---|---|
事前の計画策定等 | 特例承継計画の提出 [2018年(平成30年)4月1日から2026年(令和8年)3月31日まで] | 不要 |
適用期限 | 次の期間の贈与・相続等 [2018年(平成30年)1月1日から2027年(令和9年)12月31日まで] | なし |
対象株数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
納税猶予割合 | 100% | 贈与:100% 相続:80% |
承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
雇用確保要件 | 弾力化 | 承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要 |
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 | あり | なし |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上の者から18歳以上の者への贈与 | 60歳以上の者から18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与 |
法人版事業承継税制について、贈与税の納税猶予及び免除を適用するには、様々な要件を満たす必要があり、後継者である受贈者の要件もそのうちの1つです。
たとえば後継者である受贈者の主な要件として、現行法上(改正前)では、以下が挙げられます。
- 贈与の時において、会社の代表権を有していること
- 贈与の日において、18歳以上であること
- 贈与の日まで引き続き3年以上を会社の役員であること
- 贈与の時において、後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
- 贈与の時において、後継者の有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること(特例措置の場合)
イ 後継者が1人の場合
後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を保有することとなることロ 後継者が2人又は3人の場合
総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
上記2.のとおり、現行法上(改正前)の受贈者の要件には、「贈与の日まで引き続き3年以上を会社の役員であること」があります。
これが、令和7年度税制改正の大綱に、「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例制度における役員就任要件について、贈与の直前において(現行:贈与の日まで引き続き3年以上)特例認定贈与承継会社の役員等であることとする」と明記されました。
つまり、3年の要件が撤廃され、贈与直前において役員に就任していれば、役員就任要件を満たすことができるようになります。
この改正は、令和7年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る贈与税について適用されます。
ご相談のケースの場合、改正後の役員就任要件を満たすものと思われますので、他の要件すべてを満たした場合には、特例措置の適用は可能と考えます。
なお、特例承継計画の提出期限や適用期限の延長は、現状予定されていません。この点は十分ご留意ください。
事業承継税制に関するご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。
<参考>
国税庁HP「事業承継税制特集」
財務省HP「令和7年度税制改正の大綱」
本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。
- 名義預金と指摘されないために2025/02/05
- 住民票の異動と宅地の評価減2025/01/05
- 土地の分割と評価単位2024/12/05
- 相続時精算課税の選択と贈与税の申告2024/11/05
- 契約者貸付金とみなし相続財産2024/10/05
- 他の相続人の判がもらいづらい場合の相続税申告2024/09/05
- まだ役員ではない後継予定者と事業承継税制の適用2024/08/05
- 海外在住の日本人が相続人となった場合2024/07/05
- 相続と財産債務調書2024/06/05
- 住宅取得等資金の贈与税の特例の改正2024/05/05
- 遺産の未分割と相続税の申告2024/04/05